「エンボラーダ〜ストリートの漫才師たち」

 ブラジルの街中や海岸沿いを歩いていると、よく多くの人だかりに出くわす。それは物売りの街頭販売であったり、宗教勧誘など様々であるが、時折、パンデイロと呼ばれるブラジル版タンバリンを持った二人が向かい合って歌っている光景を目にすることがある。
 エンボラーダと呼ばれるその音楽は北東部地方で盛んな伝統音楽である。独特の早いリズムに、常に客を笑わせるコミカルな詩歌が特徴で、複雑な語調、擬声語などを巧みに取り入れて変化に富んでいる。また、エンボラーダの詩はその時々の社会状況を反映していて、中には世の中を痛列に揶揄したものもある。だが、その根底にあるのは、常に見る人を楽しませるといったエンターテイメントの精神だ。
 エンボラーダには一人のソロパフォーマンスも見られるが、「デザフィーオ」と呼ばれる二人のエンボラドール(エンボラーダを行う人)による歌くらべがなんといってもおもしろい。彼らは互いに問いを掛け合い、それぞれの返しの良し悪し、ユーモア、判断力を競う。エンボラーダは主に即興で行われるので、エンボラドールは曲の合間の短いインターバルでパンデイロを叩きながら次のネタを考える。従って歌い手には相当の技術と経験、さらにユーモアのセンスが求められる。驚きなのはそのリズムの早さにもかかわらず、エンボラドールの口から即興で飛び出すその歌詞の全てがきっちりと韻を踏んでいることだ。そして終盤、曲はさらにテンポを増し、次第に観客も巻き込んだ大きな笑いの渦が巻き起こる。
 詩や曲が気に入った客は彼らに大きな拍手を送り、パンデイロを裏返して周るエンボラドールにチップを与える。お金をくれない客に対してエンボラドールは時折、催促の曲を即興で歌う。だが決してその歌には、いやみもしつこさも感じられない。エンボラーダ(音楽)を通して彼らは客との対話を楽しんでいるのだ。そんなエンボラドールの愛嬌のこもったひょうきんさに客の財布もついつい緩んでしまう。
 このストリートで行われるエンボラーダは、その早い歌詞、独特のリズムから北米のラップミュージックに相通じるものもある。エンボラーダにもやはりアフリカ音楽の強い影響が見え隠れする。また、二人で人前に立って客を笑わすという点では日本の漫才にも近い。
 街中で出くわすエンボラドールたちは、そこがたとえば南東部のサンパウロであっても、たいてい北東部出身者だ。彼らの歌には北東部訛の方言が数多く飛び出す。時にはあまりの早口から彼らの言っていることが理解できないこともあるくらいだ。また、彼らはエンボラーダを通して北東部出身者としての矜持と強いアイデンティティーを主張しているようにも思える。
 ストリートで音楽を絡めて独特のリズムとジョークで客を楽しませるこのサービス精神たっぷりの小喜劇は、陽気に毎日の人生を楽しむブラジル人の大衆性を最もよく表しているように思えてならない。

研究員 青木義道

 

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