1.BACANA!(バカーナ)

 東京からサン・パウロ支社長として意気揚々と乗り込んできた某氏、初出社当日、秘書室で働くブラジル人の女の子に、着任の挨拶の意味で真珠のネックレスを贈った。目の前の箱から、くだんの贈り物を取り出すと、彼女は叫び声を上げた。
「バカーナ!」
 それを聞くや新支社長はは目を剥いて、「バカなとはなんたるこっちゃ!バカなとは!?」と怒声を上げた。驚いた彼女が日系の同僚に事の次第を語り、ボスが怒りだしたわけを訪ねたのは勿論。ブラジルの俗語に当たるこのポルトガル語は、美しい、素晴らしい、つまり日本の若い女性が発する、あの「スッゴオイ!」に当たる感嘆詞である。
 日本からの新米の移住者が、ブラジルの乾物屋に干し鱈を買いに行った。店先に現物があれば良かったのだが見あたらぬ。手真似で相手に分からせようと努力したが、伝達は不可能。業を煮やして、「バカヤロウ!」と怒鳴ったら、店員はにこにこ顔で大きく頷き、店の奥から現物をぶら下げて来た。鱈はポルトガル語で「バカリャウ」。塩で干したのも同じ。
 パリのホテルで日本人宿泊客が外出から帰って来て、フロントで預けてあった自室の鍵を求めた。鍵のフランス語を知らないので、手真似。奮闘努力のかいもない。これも業を煮やして日本語で「鍵をくれぇ!」と怒鳴った。「ウイ ムッシュウ」と即座に棚から鍵が取り出された。フランス語では鍵は「クレ」。これはたまたまフランス人に通じたにすぎない。つまるところ、やたら日本語で怒鳴れば通じるものではない。

主幹 田所清克

 

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