6.秘伝 石料理

 一六世紀中頃から、一七世紀にかけてスペインでピカレスク(悪漢)小説というのが流行した。悪漢とは権利を利用して大金をがばがば稼ぐなどではなく、お人好しで、どこか間の抜けた男の悪行物語。スペインからポルトガル、ブラジルへの流行過程で、主人公のタイプがますます愛すべき人柄になっていったのは国柄のせいであろう。とは申せ、悪事は悪事と開き直りたいところであるが――幸い手頃な短さのコント(小話)の訳があるのでご紹介する。男の名はペドロ。『石』という意味。

 ペドロとある家を訪のうて一飯を乞う。案の定、断られた。
「仕方ありません。ではちょっと石を煮させてくれませんか。空腹に耐えん」
 石が煮れれば食えるものならこんなに結構なものはない。石の料理とやらを拝見。主婦は台所に案内した。道で拾ってきた石ころを一つ二つ鍋に入れて、
「おかみさん、これ揚げたいんで油と塩を少々。すみません」
「あのう、すみませんが米を少々」
「あのう、牛肉を少々。すみません」
鍋一杯の料理は完成に近づいた。
「味の素はありませんかな。すみません」
「いい加減にしてちょうだい。高いのよ、味の素って」
「やむを得んです。ではごめん」
 ペドロは食べ始めた。「その石、食べないの?」とおかみさんが尋ねると、ペドロ、
「これはタネ。食わずに大切にとっておくんです」

主幹 田所清克

 

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