「ブラジルコーヒーの窓から 〜 コーヒーの豆知識 〜 」

 コーヒーの発祥地がエチオピアあるいはアラビアかという説については研究者間で永い間論争の題目となっていた。あらゆる文献で調査したブラジル国立博物館館長はその原産がエチオピアであるという事実にもかかわらずコーヒーの学名が何故に"Coffea arabica"と命名されたかが不思議であるといい、コーヒーの原産地はアビシニアとアフリカ中央部にある大湖との間、ことにネグアス帝国南部のカッファ(Kaffa)およびエネレア(Enrera)の山嶽地帯であると発表している。しかしコーヒーの伝播には諸説があり古い記録には多少の誤解や輻輳があるとされる。
 コーヒー栽培の植物学的立地条件はより赤道に近く、より海抜が高いことである。従って赤道を中心に北緯、南緯25度までの間が適しており、この地帯はコーヒーベルトと呼ばれる。その生産量においてはブラジルが世界最大であり総生産の30%〜35%をしめているが、1727年、フランス領ギアナからアマゾン河南部のパラ州に持ち込まれたのが始まりである。その後、ブラジルのコーヒー園は北はアマゾン川の流域から南はサンパウロ州の州境に東は大西洋岸から西はマット・グロッソ州境に達し、栽培樹数は約25億本にのぼり、サンパウロ州、パラナ州、ミナスジェライス州が主な産地として知られている。いわゆるブラジル高地は、海岸山脈の内奥に向かって形成する緩傾斜でテーラ・ロッシャ(Terra Roxa)と言われる赤土の肥沃な土壌(玄武岩の風化によってできあがった土壌)を有し、コーヒー栽培には最適とされる。
 コーヒーの木は熱帯性の常緑樹セイヨウアカネやクチナシと同じアカネ科の植物である。種類は200種以上ともいわれているが現在、飲用のために栽培されているものは3種類で、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種とされる。種をまいてから4〜5年で収穫が出来、6〜10年が収穫のピークとなりその後、15〜20年間くらいは収穫が出来る。木の高さは収穫のため3メートルほどに栽培管理を行う。


カップテストの風景

 収穫面積の広いブラジルでは生産地による品質の違いがあり、そのほとんどがアラビカ種である。アラビカ種は赤道直下の熱帯、亜熱帯地区全般の高所で栽培され全世界のコーヒー栽培の70%近い数量をなす。エチオピアが原産地で風味、香りともに良く、酸味があり、他の二種よりも優れているが、気候、湿度、虫害に敏感であるために栽培はやや難しい。カフェインが1.1%とロブスタ種の約半分である。ロブスタ種はカネフォーラ種に属する代表的なもので、植物上の正式名称はカネフォーラ種ロブスタである。原産地が中央アフリカのコンゴとされ、比較的虫害に強く低地でも育つために栽培可能地域に広く生産されているが香味がほとんど無くアラビカ種の混合用として使用される。カフェイン含有率は2.2%。アラビカ種よりも廉価であり約30%がこのロブスタ種である。リベリカ種はアフリカの西岸、シエラ・レネオで発見されたが、(リベリアが原産とされる有力な説もある)リベリアや西部熱帯アフリカに分布する。低地、高温多湿に耐える品種であるが採取が困難な上、豆も大粒で味はアラビカ種より著しく劣り、経済的にも重要性がないため生産は1%に満たない。

サンパウロ州のコーヒー

サンパウロにコーヒー栽培が導入されたのは19世紀の前半で、1830年代になって北部地域、海岸地域、西岸地域で生産が開始された。主としてサントス港から輸出されるため「サントスコーヒー」ともいわれ、舌触りの良い上品な酸味を持つ。インド洋の小島ブルボン島(現在のレユニオン島)から移植したものが原型となっていてこれは小粒で丸みを帯びたもので品質は良くブルボン種(アラビカ種に属するものである)と呼ばれる。サントスコーヒーはこのブルボンと平豆に区別されている。

パラナ州のコーヒー

1889年北パラナでコーヒー栽培の第一歩が踏み出されたといわれているが本格的な栽培が試みられたのは1914年頃とされている。しかしその後、1918年に襲われた大霜害により壊滅的な被害を受ける。「パラナコーヒー」といわれるこの地方の豆は品質としてはサントスコーヒーと比較してやや劣る。中〜大粒で味はソフトなものからハードなものまで幅広い。それでも優秀なものはサンパウロ州の豆と似ているため、サントス港から船積されたこともあるといわれている。品質としては中級とされている。

ミナスジェライス州のコーヒー

広大な丘陵高原セラードといわれるこの地方で栽培されるコーヒーの歴史は1974年頃と比較的新しく、パラナ州で被害にあった人たちが霜害の少ない低緯度のこの地を求めて移り住んだといわれている。ここで活躍したのが「土の魔術師」といわれる日系人で彼等はこのセラードで定住型農業技術の本領を発揮し、計画的な栽培と育成、品種改良、機械化による放水等で、現在ではブラジルのコーヒー栽培を背負うまでになった。国内での品質の格付審査においても良くバランスのとれた香味、風味共に最上級とされている。


コーヒー豆(左から):サンパウロ、ミナスジェライス、ブルボン種、パラナ、リオデジャネイロ
手前:マラゴギーペ


 主な生産地についての簡単な説明は上記のようであるが、その他多くの州においてもコーヒー栽培が行われている。リオデジャネイロ、エスピリトサント、ゴイアス、バイーア、ペルナンブーコ、パヒア、ヴィクトリア、マットグロッソ、サンタカタリーナ、セアラーなどで、まさにブラジルはコーヒー大国そのものである。
 ここで、前述しなかったが誰もが知る観光地、リオのコーヒーについて少し述べることにする。略称リオコーヒーといわれるもので風味は即特の臭気をおび、下級コーヒーの代表とされているために海外市場の需要はきわめて少ない。ただしその廉価な点において一脈の需要を維持している。イパネマやコパカバーナのあの美しい海岸線を思い浮かべると対照的であることが心に宿ることである。

研究員 玉川裕子

 

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