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1.世界最古の一神教
日本人にとって自分の宗教とは何か。このように聞かれたら、多くの日本人は「仏教」と答えるのではないでしょうか。仏教=宗教、このイメ−ジが日本人の意識の底流になっていることは間違いありません。しかし以前、欧州出身の留学生に「仏教は宗教でなく、哲学である。仏教は一柱の神について語っておらず、釈迦は本質的に人間に過ぎない。釈迦の歩みは、悟りという人間完成に向かう人間の苦悩そのものである」と言われた際に少し考えこんでしまいました。それ程までに欧州の人間にとっては、宗教=一神教という概念が頭の中で出来上がっているわけです。もちろん、ここで指す欧州の一神教とは、「キリスト教」のことです。私たち、日本人にとって、戦国時代の昔より、南蛮人=キリスト教徒という意識は強くしみついており、現在世界的にみても、キリスト教は余りにもメジャ−な宗教になっています。したがって、一神教について何か語ろうとすれば、とりあえずキリスト教に注目していればよく、日本と欧州の文化的差異もそこから判ってくるといえるかもしれません。
ただ、私としては、キリスト教が世界で最も古く成立した一神教ではないという点に注目したいと考えています。歴史的観点からすれば、世界最古の一神教は「ユダヤ教」に他なりません。厳密にいうと、ユダヤ人の父祖である古代ヘブライ人の唯一神信仰が、世界最古の一神教であり、それが基礎となってキリスト教が生まれてきました。古代ヘブライ人の歴史的歩み、その思想的結実を記述したのが、旧約聖書です。キリスト教の聖典の中に含まれているので、皆さんにもなじみ深い書物であると思います。学問的議論は省きますが、エルサレム・ヘブライ大学のS.サフライ教授の『イエス時代の背景−ユダヤ文献から見たルカ福音書』(ミルトス、1992年)において、イエスと弟子たちがヘブライ語で説教した可能性について言及しています。
このように、キリスト教の源流となった思想を理解するために、ユダヤ教を研究することは無駄ではなく、むしろ必要な作業のように思われます。日本において、キリスト教史の学者たちは、世界的にも一定の水準に達した研究を行なっています。しかし、神学上の問題になるのですが、イエスを処刑したユダヤ人、特にパリサイ派の評判は悪いの一言です。パリサイ派はユダヤ人の精神的指導者であり、ユダヤ人の離散(=ディアスポラ)初期に主導的な役割を果たすのですが、一般のイメ−ジは悪役そのものです。日本の英和辞典を引くとパリサイ派は「偽善的形式主義者」、対照的にクリスチャンには「文明人」という比喩的意味がありました。悪の金貸し、シャイロックを例に取るまでもなく、皆さんも無意識の内にユダヤ人のステロタイプを否定的にとらえてはいないでしょうか。
前置きが長くなりましたが、ユダヤ教とは少数者の宗教であることを、先ずご理解いただきたいと思います。だからといって、単なる敗北者ではない、むしろユダヤ人の存在があってこそ、キリスト教がより鮮明に見えてくると、石田友雄氏『ユダヤ教史』(山川出版社、1980年)も指摘しています。以上の点を前提にして、今回はキリスト教の先駆となったユダヤ教的思想、特に古代ヘブライ人の信仰について若干お話をしたいと思います。これにより、一神教の系譜において、ユダヤ教とキリスト教の連続性、両者が切っても切れない関係にあった点を感じて頂ければ幸いです。
主任研究員 古畑正富
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